人気ブログランキング |

血と草

f0073699_16155850.jpg


  あの僕ぅー、
  世界をずっと旅してまわってて、
  ネパールで気の勉強をやってたんですけどぉ、
  でも言葉がわからないから、
  本格的に勉強したのは沖縄なんですけどぉ、
  気でぇ、いろいろ見ることができるんですよぉ、
  それでカンパして貰ったお金で旅を続けてるんですぅ、
  カンパっていっても、金額は自由なんですけどねぇー、
  それでぇー


朝。
井の頭公園で、
遠くの噴水を凝視していた最中に、不意をつかれた。
鉛のような荷物を、イカリのようにやっとベンチに沈めたというのに。

背中越し、通勤通学のひとびと、
大型犬を連れた散歩のひとびと、
軽快に爽快に走るひとびと、が入り乱れるなか、
太陽色のランニング、
異常に赤茶けた肌の中年男は、
うさんくささに嘘のニスをほどこして、まだなんかありそうな笑みを浮かべて突っ立っている。

「あのーいらないです」

何がいらないかは、自分でもよくわからなかったが。
そう口に出た。

私は東トルクメニスタン人で、
気のプロフェッショナルです、
とかなんとかいってやればよかったか、とおもいつつ、
無言でヒッピーのどくずれ男の顔を見上げていると、
何をおもったか奴は少し真顔になって、
隣のベンチに腰をかけはじめた。

不本意ではあるが、出航の時がきたようだ。

もぉー勘弁してくれよ。
こちとら完徹なんですわー(デジャヴ?と問われた場所で只の深酒)。
オマエなんて相手してられんのだーっ!
と心中嘆きつつも、あくまで無表情で、よろよろと立ちあがる。


その後、
蚊に食われまくったり、蜘蛛の巣を数えたり、足から血を流したりしていると、
遠方に、
一人ベンチに腰かけ、池を凝視している若い女性に近づくあの男をみかけた。
声をかけないまま、どう考えても犯罪者か変質者の距離で、
隣りのベンチに腰をかけようとしている。
低級の妖怪みたいな所作で、なぜか周りをうかがう奴が、
五十メートル離れたところで自分を観察している私をどうやらみつけたらしく、
ずーっとこちらをみている。

そんなに忙しくない身なので、
同じく見返していても、よさそうなものだったが、
そういえば足が痛いし、肩は地獄の三丁目だし、
不気味な赤のキノコをまだ撮っていない。

私はまだ人間のままでいいや、とおもって、
道ひるがえり、
昔一度だけ行ったことがある近くの喫茶店を目指す。
閉まっていた。


背中では、もう未来の赤子が煙をあげている。
歩き出す、歩き出せ、
負けられないなら、戦って、譲るべからず。

by tanta720 | 2008-06-25 18:00 | 日々 | Comments(0)